空白の器


クリスマスの夜、世界はいつもと同じように華やいでいた。

だが深夜の鐘が鳴り終わると、どこからともなく響いた金属質のラッパの音が、透明な空気を震わせた。

その音は物理的な鼓膜ではなく、人々の胸の奥で直接鳴り響き、ある者には懐かしい痛みを、ある者には忘れていた希望を引き出した。

後に「選別」と呼ばれることになる現象は、外側からの裁きではなかった。

鳴り渡る調べに呼応するように、人々は自らの重りを下ろし、古い恐れと誤解を灰に変えた。それは自らの内面を映し出す鏡のような儀式であり、同時に再構築への意志の表れだった。

雪の夜、世界は一度崩れ、しかしその瓦礫から新しい言葉と約束が芽吹いた。

もしそれが「救済」ならば、それは死ではない。むしろ、無意識に積もった虚飾を剥がし、人類が自らの空白と向き合うための、大いなる再教育だった。

──痛みなき変容ではないが、暴力ではなかった。

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